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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(行コ)6号 判決

控訴人(原告) 日水政雄

被控訴人(被告) 厚生大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五一年一一月二五日付で社会福祉事業法に基づき、社会福祉法人富山県視覚障害者協会設立代表者高橋六一郎に対してなした同協会の設立を認可する旨の処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人は盲人協会の会員であり、被控訴人のなした不法認可処分により盲人協会の財産に対する権利を失うに至つたのであり、控訴人は被控訴人が本件認可処分を取り消すことにより会員としての権利を回復する利益を有する。

被控訴人は控訴人が盲人協会の会員資格を失つた旨主張するが、控訴人は盲人協会から会員資格を取り消されたことはない。被控訴人の提出した乙第一九号証は悪意により作成された虚偽文書であり無効のものである。控訴人が盲人協会から会員資格を取り消されるごとき理由は全くなく、盲人協会定款第八条二項は会員資格取消に関する規定でないのみならず、昭和五〇年九月八日現在板屋与三次郎が盲人協会の会長であつたことはない。

二  社会福祉事業法上の社会福祉法人は社団ではなく、財団である。このことは、同法二九条一項一号ないし一三号の定款記載事項に社団には欠くことのできない会員資格の得喪に関する規定の存しないこと、同法三〇条は民法四〇条に相当し社団にはない財団特有のものであること、社会福祉事業法三三条は民法四一条、四二条、及び五一条一項を準用する旨規定していることよりみて明らかである。

社会福祉事業法二九条の社会福祉法人を設立しようとする者とは、不特定者ではなく、社会福祉法人を設立することを目的に財産を捧げる意思をもつて寄付した者(多数者合同でなしたときは設立代表者を選任する。)である。しかるにこの寄付は相手となる法人は未だ成立していないから相手方のない単独行為であり、社会福祉法人設立認可申請書に添付する寄付書は、設立者が社会福祉法人を設立するために一定の財産を捧げる意思を書面に記載したものである。(財団設立のための寄付と社団設立のための寄付とは本質において全く異る。社団法人の設立のための寄付は社団法人が成立したならば一定の金品を寄付することを約束する贈与契約であるのに対して、財団法人の寄付行為は即設立行為である。)

社会福祉法人は財団であるから、構成員たる会員は存在しない。たまたま会員の存するものがあるが、それは法人の構成員たる会員ではなく、社会福祉法人の事業費等を助成する賛助的意思を有し会費としてその支出を負担する契約をした者をさすのである。

三  盲人協会が本件認可がなされることを条件として解散の決議をなした事実は存在せず、また訴外協会設立代表者宛に設立認可を条件とする寄付申込をなした事実もない。(寄付申込書は社会福祉法人認可申請書には全く関係のないものであり、不可欠なのは寄付書である。)従つて、本件認可がなされたことにより解散決議に付された条件が成就し、その結果解散という法的効果が発生したにすぎないとする被控訴人の主張は失当である。

四  社会福祉事業法三〇条には「当該申請にかかる社会福祉法人の資産が二四条の要件に該当しているかどうか、その定款の内容及び設立の手続が、法令の規定に違反していないかどうか等を審査した上で、当該定款の認可を決定しなければならない。」とあり、この審査については、社会福祉事業法施行規則一条に詳細にわたつて定めている。この審査の最重点となるのは寄付書である。同法における定款の認可とは、寄付書記載の財産が審査の結果定款認可書により登記をすれば、法人の財産を組成するとの被控訴人の証明に等しい性格をもつものである。(社会福祉事業法三三条)従つて、盲人協会の財産が同協会から訴外協会に移転したという法的効果が本件認可処分そのものに法律が付与したものでないとの被控訴人の主張は不当である。

五  社会福祉法人設立の認可手続に関する社会福祉事業法の規定には、被控訴人の認可があれば寄付するとの寄付申込書によつて認可することができるとの定めはなく、盲人協会が本件認可の社会福祉法人に寄付するとの意思決定をしたこともない。また、それに関連した法律上の必要手続をなした事実も存在しないのである。すなわち、盲人協会定款三五条、四三条には財産の寄付は富山県知事の認可事項と定められ、同知事の所管に属する公益法人の設立及び監督に関する規則一一条、一四条においても認可事項と規定されているから、盲人協会の寄付書には、適法な議事手続と併せて富山県知事の認可書が添付されていなければならないのにそのいずれをも欠いている。

しかるに、被控訴人は法令に定められた審査を怠り、不法に本件認可処分をなしたため、盲人協会の財産は不法に訴外協会に占有されるに至つたのであるから、盲人協会の会員たる控訴人は盲人協会を正常化するため、本件認可処分の取消を求める権利があり、取消により利益が得られるのである。

(被控訴人の主張)

一  控訴人は、盲人協会の定款八条二項の規定(乙第一二号証)に基づき、昭和五〇年七月二〇日付をもつて盲人協会の会員としての資格を取り消されており(乙第一九号証)、もはや右協会の会員ではないのであるから、仮に本件認可処分が取り消されることになつたとしても、それによつて控訴人には何ら回復しうる法律上の利益は存しないものといわなければならない。

二  仮に、控訴人が盲人協会の会員たる資格を有していて、右盲人協会が解散することによつて、同協会の財産に対する権利を失う等、何らかの不利益を被ることになつたとしても、右のような不利益は、解散による反射的不利益であつて、被控訴人のなした認可処分に基づいて発生したものではない。なぜならば、盲人協会は、本件認可がなされることを条件として解散決議をなしたのであるが、訴外協会に対する本件認可処分がなされたことにより、解散決議に付された条件が成就し、その結果、解散という法的効果が発生したものにすぎなく、しかも、訴外協会に対する被控訴人の本件認可処分は、盲人協会の定款の解散決議に関する定めとは法律上何らの結びつきはなく、全く無関係だからである。

右のことから明らかなように、盲人協会が有していた財産が、訴外協会に帰属することとなつたのは、盲人協会の解散決議に付された訴外協会に対する本件認可という条件が成就したことによる法的効果によるものである。したがつて、一般に、許認可処分について、当該許認可処分の効果とされている効果以外の効果が法律上発生する余地の全くないことは、他言を要しないところであるから、盲人協会の財産が、同協会から訴外協会に移転したという法的効果が本件認可処分そのものに法律が付与したものでないことは、社会福祉事業法の諸規定に照らして、明白なところである。

そうであるとすれば、盲人協会の解散に伴つて不利益が生ずることを理由として、訴外協会の会員でもない控訴人は、訴外協会に対する被控訴人の本件認可の取り消しを求める法律上の利益を有せず、したがつて、本件訴訟についての「原告適格」はないといわなければならない。

三  その余の控訴人の主張事実はすべて争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  本件訴えは、被控訴人がなした社会福祉事業法に基づく訴外協会の設立認可処分の取り消しを求めるものであるところ、まず、右設立認可処分の性質について検討する。

社会福祉法人の設立については、登記によつて成立する旨の社会福祉事業法三二条の規定や、定款につき厚生大臣の認可を受けなければならない旨の同法二九条の規定よりみれば、社会福祉法人の設立について厚生大臣の認可処分なるものが存在するかについては疑なしとしない。しかし、同法施行規則一条の二、四項には「設立の認可」なる用語が使用されているのみならず、設立登記手続についても、設立の認可等設立に必要な手続が終了することを要求され(組合等登記令三条一項)、定款の認可は設立に必要な手続といいうるから、定款の認可は即ち設立の認可を意味するものと解することもできる。そして、右定款が認可され社会福祉法人が設立されると、社会福祉事業法六二条に基づく届出のみで同法四条、五七条の第一種社会福祉事業の経営をなすことができ、同法五条により国又は地方公共団体から助成を受けることができるほか、法人税法二条六号別表第二、七条により税法上の特典を付与されるなどの法的効果を生ずるのである。定款の認可は社会福祉法人を設立しようとする者に対し、右のような法的効果と結びついた社会福祉法人の設立を可能にするという法的効果を生じるものとして、その処分性を肯定できると解される。

二  被控訴人は控訴人には本件訴えを提起するにつき法律上の利益はなく、「原告適格」を有しない旨主張するに対し、控訴人は盲人協会の会員として被控訴人の不法認可処分により盲人協会の財産に対する権利を失つたのであるから、本件訴えにつき利益がある旨反論する。

控訴人が盲人協会の会員であるか否かにつき、被控訴人は当審においてこれを争い、昭和五〇年九月八日会員資格を取消された旨主張するに至つたのであるが、その立証として提出された乙第一九号証は控訴人が無効として争うところであり、控訴人の盲人協会の会員資格につき当事者間に争いがあるので、この点についてはしばらく措き、控訴人が盲人協会の会員資格を有するとして本件訴えにつき法律上の利益を有するか否かについて判断する。

控訴人は、本件認可処分がなされたが故に盲人協会の財産が訴外協会の支配するところとなつたとの前提のもとに、右処分の取消しを求めるにつき利益を有すると主張する。

しかしながら、法人設立の認可から直接に生ずるのは法人の成立という法律効果のみであり、成立した法人への財産の帰属は設立行為たる財産出捐行為あるいは設立準備のための財産移転行為が原因となつて生ずるものと解されるから、右財産の帰属という法律効果との関係では設立の認可は間接的意味しかなく、また、右認可処分によつて財産出捐行為あるいは財産移転行為の私法上の有効性が公定力をもつて確定されるものでもない。

従つて、本件認可処分の取消しを経なくとも、盲人協会から訴外協会への財産移転の原因たるべき行為の存否あるいは有効性を争うことにより訴外協会への財産帰属の効果を直接争うことは可能であり、かつ、盲人協会の財産を回復するための方法としてはそれで十分であつて、あえて訴外協会の法人としての存在までを否定する必要はないと解されるから、控訴人につき訴外協会の設立認可取消訴訟の当事者適格(原告適格)を肯定することはできないというべきである。

三  以上の次第で、本件訴えは当事者適格を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。

よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 清水信之 山口久夫)

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